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2020.06.10 Wednesday

六甲の坂の途中にー「口笛文庫」のたたずまいー

 先週(6/5)、ちょうど2ヵ月ぶりに神戸へ出かけました。大学病院のあと、神戸の街を歩きましたが、私の節穴の目には、街の変貌というものが見えてきませんでした。緊急事態宣言下で自粛休業していた多くの店舗が再開されていたこともあるのでしょうか、自然災害とちがって、コロナ禍は自然や都市の風景を一変させるという性格ではないことに思い至ります。このことが大規模な災害に比べ、今回のような感染症の記憶を拠り所がなく忘れやすいものにしているのではないかとの論述もありますが、いかがでしょうか。

 本稿では、2ヵ月ぶりの神戸の街を万歩歩行して感じたことに少しふれつつ、最後に訪ねた古書店『口笛文庫』で店内の様子を撮らせてもらいましたので写真中心にゆったりと紹介することにします。

 

 神戸大学病院の南隣に港翔楠中学校がありますが、11時過ぎに病院を出ると、その校舎に貼られたメッセージが目につきました。このメッセージが歯抜けになっていて、おもしろかったのです。

 6月冒頭から学校が再開され、三密回避のためか窓が開放されていたためで、下記の写真では、上段から「〇〇〇〇の皆様/神〇を〇う〇様〇力に〇謝!/コ〇ナ〇負〇ずにが〇ば〇ま〇ょ〇!」となっています。正解は「神大病院の皆様/神戸を救う皆様の力に感謝!/コロナに負けずにがんばりましょう!」だそうです。もともと同中学校には、院内学級もあって神大病院と関わりが深いとのことですが、5月1日にこのメッセージは貼りだされました。同月20日には病院側も応答し、中学校の正面にある病院の渡り廊下に「応援メッセージをありがとう」と、お礼の言葉が掲げられたのです。

  港翔楠中学校校舎の「応援メッセージ」 [2020.6.5撮影、以下全て同日に撮影]

 病院へ入る際には、もっとものものしい感染防止対応があるのかなと思っていましたが、3ヵ月前と同じで、出入り口が正面玄関1か所に限定され、消毒用アルコールスプレーがおいてあるだけでした。病院に入り、ああと思ったのは、3月10日からだという「面会禁止」措置が今も継続していることです。

 病院内でも新型コロナウイルスの感染防止対策に伴う変化は特に感じられませんでした。泌尿器科の外来待合は相変わらず多くの患者でぎっしりで、ディスタンスどころではありません。次に診察してもらった放射線腫瘍科の担当医師に尋ねると、リニアック待合室では距離を空けて座ってもらうとか、今まで以上に消毒を徹底するとかぐらいかなとのことでした。

 一方、診療費の自動支払機の前に、スーパーのように立ち位置を表示するマークはないにもかからわず、患者たちはディスタンスをとって並んで待っていました。これは患者の自主行動といえるのでしょうか。

 

 病院を出て、強い日差しを避けるように日陰を探しながら歩いたのですが、人気洋食店「洋食の朝日」の前には、11時半頃だというのにディスタンスのとれていない行列ができていました。他方、あとで立ち寄った大丸では、「入口」と「出口」を分けたり、「入口」を入ったところで自動で発熱を監視する装置の前を通ることになっていました。

 私は決して口うるさい消毒じいさんではありませんが、神大病院の外来患者への感染防止のための対応はちょっと豪快、豪気のように感じたりしました(見えないところで本質的な対策はしているよということでしょうが)。それこそ何のエビデンスもないのですが、家人から別の病院の対応を聞いたりしていた内容に照らしてみると(病院外のテントでの体温測定など)、やはり、これまで院内感染が出ていないからという背景もあるのかなと邪推したくもなりました。

  神戸大学病院1階ロビー「面会禁止」のサイン

  神戸大学病院の自動支払機前の並ぶディスタンス

  「洋食の朝日」前の行列

  大丸神戸店前の「入口専用」「出口専用」の分離

 元町一丁目に『萬屋宗兵衛』がありますが、前稿(「ちょっと足を伸ばしてー的形の海辺にー」)に登場した『WAY OUT WEST』6月号で、4月に閉店したことを知りました。階下への階段の前には、「閉店しました。ありがとうございました。」のあいさつとともに、もう一つお知らせペーパーが掲示されていました。「いつも半ズボン姿でおみやげをくださったお客様ぜひご連絡ください。」とあって、ちょっといいストーリーが想定されて楽しくなりました。

 ジャズ中心のライブハウスである同店は、1999年に開店し、21年目を迎えていました。同誌掲載の店主挨拶によると「営業継続を考えていましたが、地下という立地でもあり、コロナ以前のようにはやっていけないとの結論に至りました」のだそうです。米国から帰国した直後のコンサートで聴いてその骨太の音にびっくりした記憶のあるトランペッターの広瀬未来さんが、次の文章(部分)を寄せ、感謝の意を表明しています。

 「 萬屋宗兵衛はジャズの間口を広げてくれたライブハウスでした。私自

  身、そして同世代のミュージシャン、リスナーのほとんどがその間口の広

  さの恩恵に授かったのではないかと思う。《中略》萬屋宗兵衛が広げてく

  れた間口から入った自分がこれからのジャズシーン(コロナウイルスとの共

  存も含め)について考える重要な時期に来ていると思う。萬屋宗兵衛、スタ

  ッフの皆様、ありがとうございました。」

 このように「萬屋宗兵衛」は、大きな役割を果たしたのです。私は1、2回ほど覗いただけですが、こうした店が名前をもった生命体であるとするなら、「閉店」することは生命のサイクルというべきでしょう。だから、いたずらに惜しいとか、残念だとか、申し上げることは失礼なこと、敬意に反することにもなるのではないか、私は思ってもいるのです。

  元『萬屋宗兵衛』前の貼り紙(元町通一丁目)

 昨年は、古書店の好きな私にとって、エポックな年でした。2月の『花森書林』(旧「トンカ書店」)の場所を移しての新たな出発(2019.2.10「「花森書林」へようこそー「トンカ書店」ありがとうー」)、そして、9月の口笛文庫と清泉堂の合同店舗である「三宮駅前古書店」、10月のまちづくり会館内に古書店共同運営で「神戸元町みなと古書店」がそれぞれオープンと続いたのです。

 「神戸元町みなと古書店」はまちづくり会館の開館とともに再開していましたが、「花森書林」はシャッターが下りていて「4/14(火)より臨時休業致します。」の貼り紙がありました。

 昨日(6/8)、「花森書林」の店主に確認したところによりますと、この機会ということもあって再開準備に日にちをかけるつもりで、オープンは6月下旬から7月初旬を予定しているとのことでした。乞うご期待です。

  『神戸元町みなと古書店』(神戸市立まちづくり会館内)は営業中

  『花森書林』の「臨時休業」貼り紙

 さて、本稿のテーマ、『口笛文庫』のことです。今回はいつものJR六甲道駅からとは逆に、阪急六甲駅で下車して、『六珈』でコーヒーを飲んでから、八幡本通の坂を下りました(JRと阪急のほぼ中間に位置しています)。

 以前から、私の好きな店内の様子(本が並べられたり積み上げられたりしているカタチ)を写真にしたいと店主に話していましたが、今回、やっと実現しました。本稿では、開店(2005年1月だそうです)から15年余を経過した現在(2020年6月)の古書店の姿をお伝えしたい(自分のためにも残しておきたい)と思っています。なお、参照していただきやすいように写真に番号〇を付しています。

 口笛文庫は、いろんな方のブログ等でも取り上げられていますが、ここでは『空犬通信』というブログの記事(2017.11.27「神戸で古本屋さん巡りを楽しんできましたよ」)とリンクしておきます。

 

 まず、口笛文庫が六甲の坂の途中にあることです。道を隔てた反対側から、全景()を撮影して驚いたのは、まさに坂道の途中にある一軒家だということです。急な坂の多い六甲では、このあたりの坂は序二段というところで大したことはないと思っていたのですが、写真をみると、違いました。幻惑する傾斜に水平を見失うような不思議な感覚があります。

 この坂道性というものを端的に示すのが、店舗の前に並べられた100円均一本や雑誌を中心とする平台です()。坂の傾斜に逆らわずに台をおくと、こんなに傾斜がついてしまうのです。背後のガラス越しに見える店内の棚の水平と比べると、さらに、その傾斜が際立っています。

 右側、すなわち南側の入り口()には白い文字でガラスに『古本とジャズ 口笛文庫』とあります。私は「口笛文庫」と呼んでいますが、こちらの方が正式名称になるのでしょうか。「古本とジャズ」はかつて私のフェイバリットだった植草甚一の本のタイトルに由来するのだそうです。

 この文庫の場所の坂道性は、店内に波及しているので補足しておきます。この建物はもともと二世帯が入居していた民家で、2005年のオープンに際しては、右側の半分を借りて始めたそうで、数年して左側も借りることができて改装し、現在のように建物の一階部分全体に店舗を広げることができたのです。もちろん店内の床面が傾斜しているわけではないのですよ。真ん中に階段2段が設けられ、床面が上下に分かれています(便宜上、本稿では,亮命拭右側の下段を<1F>、左側の上段を<2F>と呼ぶことにします)。

   惴笛文庫』の全景 [八幡本通の反対側から撮影]

  ◆惴笛文庫』前の平台の傾斜

  F口の『古本とジャズ 口笛文庫』の白文字

 古書店の店内の雰囲気を伝えたいのですが、私にとっては、やはり本のおかれた状況であろうと考え、<1F>に<2F>に分けて、その映像から感じていただければと思っています。

 で、最初に口笛文庫を訪れたのは、いつ頃でどんな経緯があったのでしょうか。確かなことは分からないというのが結論ですが、推測しておきましょう。それまで六甲という土地は、六甲山上に行くための経由地でしかなかったのですが、2000年代の半ばにJR六甲道駅からすぐ北の『宇仁菅書店』(これも古書店)の存在を知って時々通うようになりました。2009年3月末が最初の退職でしたが、その前後でしょうか、近くに<ジャズ>を冠したユニークな古本屋がある情報を得て、初めて坂を少し北上して「口笛文庫」へ足を伸ばしたのではないかと思っています。そのとき、店舗は既に現在のフルバージョンに改装済みではなかったと記憶しています。

 そして、前者の高踏というか、フォーマルな雰囲気に比し(決して悪い意味で使っていません)、口笛文庫のもっと幅広く柔軟でカジュアルな感覚は、私が古書店に求めるものに近いように思ったことでしょう。端的に申し上げれば、私が購入したいような本や雑誌が多くあったということになります。ですから、以来10年超か10年前後のお付き合いということになります。2015年4月からは、六甲の大学の聴講生になったこともあって、それこそ山の校舎から下りてきたその足で覗けるようにもなったのです。

 店主が急に亡くなられ、宇仁菅書店が閉店したのは、2012年3月のことでした。今にして思えば、宇仁菅書店の店主は(店内にはいつもバッハの鍵盤音楽が流れていました)、かつての古書店のあるじとして、ある種の理想を身にまとった方であったのでしょう。

 

 寄り道してしまいましたが、店内の様子を紹介します。先にリンクした『口笛文庫』のホームページの「当店について」には、本の書名の分かるほど接写したいい写真がアップされていますので、ここでは、もう少し広い範囲をカバーする写真を組み合わせて雰囲気を感じてもらいましょう。

 まず<1F>の方です。

 入り口の引き戸を開けて店内に入って前を向くと()、右手前の平台に児童書と絵本、右側の棚にもそういうものに加え、料理本や手芸本、美術等の展覧会の本などがあります。このあたりには、子供たちやお母さん方がよく来店して、写真の小さな椅子に座って本を読んでいたりします。私はここをスルーして真っすぐに奥の棚に向かいます。

 奥の右側は音楽が中心で本だけでなくCDの棚()もあります。ここのジャズ本にはお世話になりました。イ亮命臣罎CDで手元にあるのは、上から3段目右端のマイルス・デイヴィス『死刑台のエレベーター』だけです。同名の映画のための音楽を映写をみながら即興で吹き込んだというマイルスは、ジャケットのジャンヌ・モローと束の間の恋におちたといわれています。

 左側は、映画、芸能であり、その横、L字形の短辺には建築関係の本が並んでいて、私は毎回のように覗いてしまいます。ここで吉田五十八や吉村順三たちに出会いました。

 

 この穴倉を出て右手に回ると()、哲学、思想、政治、経済、現代史の本がずらっとおかれています。奥には、新書系がぎっしりと詰まっています。ここは素通りできずに、ざっと眺めるのが恒例ですが、せっかく購入しても、さらっと読めないような本が多いところです。私にとっては、鶴見俊輔や加藤周一らを中心に、たとえすぐに読めなくても、購入しておこうよと主張している棚ということになります。

 そして、Δ涼譴鮑犬愨元から積み上げられた本の隙間を回りこむと、<1F>の中央に平台があって()、古本らしい古本というか、戦前、さらには明治、大正の本や雑誌や図版など(外国語の本もあったかな)が平積みされています。十分にお年寄りの私ですが、ここはスルーして手前の棚に注目します。植草甚一、小林信彦など晶文社系の作家の本が多くあり(最近はもっと幅広い)、80年代のサブカルをリードした本が多く集められています。

 このあたりで安西水丸の関係本を手に入れたことを当ブログにも書いています(2018.1.11「線にはすごく感情が表れてー安西水丸のイラストレーションー」)。この記事には、安西本を購入したとき、店主から「〇〇さんは安西水丸さんに似ておられるとずっと思っていました」と言われて動揺したことを記しています。

  <1F>入口からの正面

  <1F>CD棚の一部

  <1F>い虜玄

  <1F>中央の平台など

 以上が<1F>ですが、<2F>へ上がる2段だけの階段の左手前の棚は、現代の日本文学、今今の小説群が並べられ、階段脇には()、売れ筋とでもいうのでしょうか、こんなディスプレーもされています。

 <2F>を足場として、できるだけ<1F>全体を撮影しようとしたつもりですが、一部しか写っていません()。それにしても、これは何でしょう。書名の見えない本、それも時間をまとった本の塊りというしかない代物というべきでしょう。でも、本好きにとっては、曲芸的なバランスというより、不思議な均整をたたえた情景とでも表現したくなるのです。

 いつも書いているとおり、病膏肓に入る、バカは死ななきゃというのは、こんな感覚なのでしょう。

  <1F>から<2F>への階段脇

  <2F>から<1F>の全景?

 次に<2F>です。

 二つの階段を上がって、左手はL字形の文庫本コーナーが充実しています()。短辺である左手奥には岩波文庫がそろい、そしてその上段には、たまに手に入れたりする小型の詩集が並べられています。長辺側の右手には各種文庫、特にこれだけ講談社文芸文庫が揃っている古書店はめずらしいですし、私のような者にとっては岩波現代文庫が数多いのもありがたいことです。写真には入っていないのですが、最下段には、雑誌『芸術新潮』『太陽』があって、何点か、私たちの海外旅行の参考書になりました。

 時計回りに半身を動かし、右奥を眺めると()、手前の平台には外国文学の単行本が積まれています。当ブログによく登場する須賀敦子、池内紀や池澤夏樹の翻訳書も多く、もう20年以上前なら、チャレンジしてみたいと思いながら眺めたりします。そして、その脇には、洋書も多数おかれています。この写真には写っていませんが、<1F>側には、まだ価格のついていない未整理本が、うず高く積まれていたりします。

 右奥手前には歴史、考古学、民俗学の棚ですが、どうしてか、あまり見ていないのです。さらに奥の横長棚は、広く芸術本全般、稀覯本もあるのかな、で埋め尽くされていて壮観です。このうち一番右端の棚は上から下まで写真集や写真の本が並んでいて、私にとっては大切なコーナーでした。もっと以前に「口笛文庫」と出会っていたら、もっと多数買っていたかもしれませんが、退職後のお付き合いということで、とりわけ年金生活者になってからは実際に購入した写真本は限られているのでしょう。「でした」と書きましたが、やはり今も大切なコーナーであることに変わりはありません。

 

 続いて、文庫本コーナーに続く、左手の奥のコーナーです()。手前には、戦前、戦後すぐの小型本が並べられていて、このような本を探している方にとってはきっとワンダフルでしょうが、私はスルーしてさらに奥のコーナーでいつも立ち止まります。後でもう一度ふれることにして、このコーナーを右に折れて、くるっと右手(<1F>の方)を向いたら、低めの書棚があって(には裏側しか写っていません)、最近の私にとって、一番親しみを感じている店内スポットです。

 ここに並べられる本のセレクト方針について店主に訊いたわけではありませんが、なんというか、日本文学系の作家名からセレクトされているようなのです。先に登場した池内紀をはじめ、上林暁、杉本秀太郎、野呂邦暢、足立巻一、杉山平一、吉田健一そして、阿部昭等々と幅広いのですが、共通しているは、いまだにファンがいて評価を得ている本だということです。今や50代になっていますが、かつての若手、堀江敏幸の本もこの棚から購入しました。いわゆる文章家と呼ばれる書き手ということでしょうか。大阪の出版社である編集工房ノアの本も多く集まっています。

 ここも後で再登場してもらうことにします。

  <2F>左手の文庫本コーナー

  <2F>右手奥

  <2F>左手奥

 <2F>の左手奥のコーナーに戻ります()。

 写真右側の棚は(一部は左側にも侵食していますが)もいわば本の本とでもいうべき本や雑誌が集められています。自分だけの本づくりや出版に関する本、装丁、ブックデザインの本、ユニークな出版社からの発信本、本屋さんの紹介や経営についての本、古本屋、古書店についての多岐にわたる本など、書評本も加わり、本への愛にあふれた一角になっています。左側には単行本の詩集が集められており、谷川俊太郎の本も並んでいます。この一角は「口笛文庫」の心臓、店主の初心が表現されている棚かもしれないと想像しています。

 ランダムに3冊ピックアップして立てかけてみました()。真ん中はタイトルすら知らなかった『愛書家鑑』、左右はよく読んだことのある二人の本、左側は辻まこと画・文『すぎゆくアダモ』(1976年創文社刊です)、右側は当ブログでおなじみの天野忠詩集『うぐいすの練習』(没後の1995年に編集工房ノアから刊行されました)です。前2冊は函入り本で、今はこんな造本はもはや、ほぼ壊滅状態になっています。

  <2F>左手奥のコーナー

  <2F>のコーナーからピックアップ

 このホットコーナーのすぐそば、先ほど近頃では最も親しみを感じているとした棚に戻りました()。誰かが阿部昭の『子供の秘密』(1976年福武書店刊です)を抜き出しています。若い方で阿部昭の本を探していたりもするんですと、店主から話を聞かせてもらったりしながら、店主が撮影してくれたものです。だから、この手は私の手ということになります。

  <2F>阿部昭『子供の秘密』を抜き出す手

 こんな店内ですが、最後は店主の居場所です。<1F>から<2F>へ上がり、右手奥に本に囲まれたスペースに()、店主は座っています。天井からランプが下がっているところです。本との押し合いへし合いでだんだんと居場所が狭くなっているようでもあります。レジがあるのですが、作業スペースにもなっていて、時に顔が見えにくくなっていたりします。

 この古書店を、28歳で開店したという店主は、それから15年、40歳をこえたことになりますが、変わらぬ青年の面差しが残る顔で座っています。難しい顔をしているわけではありません。

  <2F>店主の居場所

 以上、ごく私的なものになってしまいましたが、古本屋さん『口笛文庫』の店内を探訪してみました。そのたたずまいを味わっていただけたでしょうか。こうして書いていると、私のふれたことのない本の山や棚がたくさんあることに、いつもみていると思っていた本の記憶のあいまいなことに、気づくことになりました。

 ですから、誤りを含み、いい加減なことを書き散らしていそうで、ちょっと怖くなりますが、お許しをいただきましょう。

 

 店主は、学生時代からサラリーマンだけにはならないでおこうと思っていたようです。音楽関係の仕事をへて、準備期間をへて、2005年1月にこの古書店をひらいた方です。あたりはとても柔らかですが、やはり芯の強い方なのでしょう。そして、『花森書林』の店主と同様、親からの継承ではなく、自分で立ち上げて育ててきた店主であることに、サラリーマンであった私は少なからぬ敬意をいだいています(もとより継承を貶めるつもりはありませんが)。そんな自主自立の気配は、言葉の端々から漏れ出てくるようです。

 そんな店主のお人柄もあって、それに六甲という土地柄もあって、『口笛文庫』は地域の古本屋さんとして立派に根付いています。近辺から買い取った大量の本が入ってきて、外部の古本市等イベントへの参加が重なると、店内の本の混雑度が高くなり、やっとなんとか整理できたと思ったら、すぐにまた造山活動が始まったりが繰りかえされています。まあ入超ということなのでしょう。今回のコロナ禍でも、この機会に整理したという方々から申し出があり、買い取った本も多くあったと聞きました。

 加えて、六甲と違ってターミナル駅の人並みに接する『三宮駅前古書店』という新店舗にも活動範囲を拡げていることで、失礼ながら、学ばれることもあるのかなと想像しています。

 

 当ブログでは、2015年、16年の二度、トアロードのBALの6Fスペースで開催された「冬の古本市」を「挑戦的なイベント」として紹介しました(2015.12.14「「よくやったね」冬の古本市へ」//2016.12.18「今年も口笛文庫とトンカ書店の『冬の古本市』」)。BALの6Fが常設店舗に代わったことから、開催できなくなり心配していましたが、前記のとおり、神戸市立まちづくり会館内に常設の『神戸元町みなと古書店』の共同運営が開始されるなど、新たな動きが出てきたことを、オールド古本ファンとして喜びたいし、歓迎したいと思っています。

 そして、『花森書林』の開店に際しての記事(再掲:2019.2.10「「花森書林」へようこそー「トンカ書店」ありがとうー」)において、過去10年余で古書店に足を運んだ回数は『口笛文庫』と『トンカ書店』(現『花森書林』)が両巨頭であり、お世話になった両店の店主をちょっと応援したいという気持ちをもっていると書きました。何も実質はありませんが、精神的にはその気持ちに変わりはありません。

 青年老いやすくではありますが、できる範囲で、もう一つの時間の流れる空間として、古書店が在り続けることを、心より期待し、願っています。

 

 最後にもう一度『口笛文庫』の全景(縦長分)を載せておきます。坂の途中にあるというロケーションの面白さ、見事さ。そして、真ん中に立つ一本の樹木は、古書店を支えていくことでしょう。

  穎珊辰虜笋療喘罎法惴笛文庫』の全景

 

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70代前半。兵庫県在住。ニックネームは「パンテオンの穴」。
リタイア後の日々の中で思いを泳がせて、あるいは思いが泳いで 感じたこと、考えたことなどを、のんびりと綴っています。
                         
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