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2019.02.10 Sunday

「花森書林」へようこそー「トンカ書店」ありがとうー

 「花森書林」という古本屋さんが2月7日にオープンしました。当ブログを読んでいただいている方なら、「トンカ書店」という文字に見覚えがあるかもしれませんが、その店を昨年の12月20日で閉じ、場所と店名を変えてオープンしたのです。

 昨日(9日)、「花森書林」[HP]をちょっとだけ覗いてきました。

 新しい店は元町南の元町通3丁目、元町商店街の一本北側の狭い南北路地の一角にあります。元町がホームグラウンドの私にとっては大変にわかりやすい場所ですが、最初に訪ねようとされた方は何本かの路地を探すことになるかもしれませんね。今度は1階ですし、両開きのガラスドアの入り口で、展示スペースは奥行きも天井高もあって、とても開放的な空間となっています。

 私の短い在店中にも、トンカ書店に通っていた方が多いようでしたが、ひっきりなしにお客様が入店していました。そんな忙しい中、大変に失礼なことをしてしまったと後で反省していますが、店主は今回の移転オープンについての私からの質問に彼女自身が思いをメモしてくれました。これをベースに私が理解した範囲で書いてみることにします。

 

 昨年暮れに元のトンカ書店に足を運んだとき、貼紙が掲げられ、閉店したこと、そして同じ元町で新しい店舗をオープンするべく準備中であることが書いてあって、えっーと驚いたのです。私自身のインフルエンザもあり、やっと1月末に今年初めて訪ねた六甲の「口笛文庫」の主人から、新しい店の場所と近々のオープン予定を教えてもらいました。そして「前よりも広いスペースですし、店名も変えるそうですよ」「えっ、そう。どんな名前ですか」「それは本人から聞いてくださった方がいいでしょう」との会話を交わしたのです。口笛の店主は、広いスペースはあっても本の山で窒息しかねない店内を見回しながら、やや羨ましそうに話していました。

 トンカ書店は2005年12月20日にオープンしていますから、ちょうど13年間営業していたことになります。そんなに経ったのか、という感覚ですが、当ブログでも書いたように(「「よくやったね」冬の古本市へ」「今年も口笛文庫とトンカ書店の『冬の古本市』」)、退職の少し前から現在までの10余年で、古本屋へ足を運んだ回数は「口笛文庫」と「トンカ書店」が両巨頭なのです。日本語でも古文はダメ、戦前の本もダメ、まして横文字はまったくダメ、読むのは現代日本語文と写真集などのビジュアル系だけの私にとって、両店は肌合いが最も合ったのです。加えて、親・親戚からの継承でなく、自分で立ち上げて育てている若い店主をちょっと応援したいなあという気持ちもありました。ということで両店には大変にお世話になったというわけですが、残念ながら、読めもしない本の山が加齢とともに気になって、購入量がグーンと減った時期にちょうど重なってしまいました。

 

 本題に戻りましょう。

 「花森書林」店主は、心機一転という言葉を用いて、今の心境を語っていて、印象に残りました。

 今回の移転は、前のビルの老朽化に伴う水漏れなども大きなきっかけとなったけれど、幼い二人の子供を子育て中でもあり、そんな自分の生活とのバランスのとりやすい場所で店を続けることを模索した結果でもあるとのことです。そして、店名の変更は、旧店舗の店名である旧姓と、結婚後の現在の姓の両方を活かそうと、その名字から1文字ずつ「花」と「森」を採って合わせて「花森」としたのだとのことでした。ある方から、「花森書店」というより、「森」があるのだから「林」でしょうとの示唆もあって、「花森書林」に決めたのだということです。こんなことを聞くと、「トンカ書店」の店名に愛着のある私ですが、「花森書林」か、そうかなるほどなるほどと、とてもいい名前に思えてきました。

 先の心機一転ということでしょうが、新たな場所で新たな店名で「生まれ変わるつもりで一から励もう」というのが、彼女の心構えなのでしょう。

 さらに、旧店舗と同様に、多くのお客様が「気楽に気軽にお立ち寄りいただける場所である」ことを大切にしたいとのことです。そして、メモには「一歩一歩焦らず、一日一日を大切に過ごしたいです」とありました。

 真正面からは気恥ずかしい部分もある言葉ですが、衒いなくこうした言葉を用いることができる、そのことにウソ偽りなどないのだということは、前々からの顧客なら店主がそうした人だとわかっているのです。そこに、男女、年齢を問わず多くの方から愛され信頼されている店主の真骨頂、いわば、店主の凄みがあるのだと、私は思っています。

 いよいよ老朽化のすすんだ私は、老爺心のようなものか、無理をしないで一歩ずつでお願いしますよ、と祈るばかりなのです。

  店舗の外から撮影した入口と内部です [以下、2019.2.9撮影]

  入口の左側ドアの「花森書林」というロゴマークです

  入口の右側ドアの「ほんのみせ はなもり」を通して内部を撮影しています

 最初のところで書いたとおり、店内は奥行きもありますし、天上も高く、大変に明るい空間になっています。照明の照度も関係しているのか、とにかく気持ちのよい明るい空間です。新店舗のスペース自体はバックヤードを含めた旧店舗の全体とあまり変わりがないということですが、展示のスペースはずいぶんと広くなったように感じられます。

 展示の冊数は現在のところ8000冊くらいで、旧店舗の3500冊から比べると、グーンと増えています。だから、今までみかけなかった本もたくさんありました。旧店舗ではスペースの関係で限界のあった小物というのでしょうか、そんなものも本といっしょに配置された空間となっています。今回はゆっくり棚をみたとはいえないので、これから通っておいおいと棚の、本の配置に慣れていけば、もっと面白くなってゆくことでしょう。

 「花森書林」のロゴやマークのデザインワークが、私の目をひきました。これはどこかなつかしさを感じさせるモダンなデザインです。ですから、古本屋さんにふさわしいデザインかもしれませんね。

  内部の真ん中あたりから入口の方に向けて撮影しています

  ちょっとユニークな天井からつるされた地球儀の照明です  

  「花森書林」のロゴやマーク入りのポストカードです

  ★印に位置しています いい味のある場所です

 

 トンカ書店にも花森書林にも何の関係もないことですが、編集工房ノアの社主である涸沢純平の二冊目『やちまたの人 編集工房ノア著者追悼記続』のことをブログで書こうとして(そう言えば、これに関連する足立巻一の『人の世やちまた』もまた昨年私の求めに応えて店主が探してくれたのでした)、杉山平一の詩を読んでいて、ああと思わず声が出るほど、私が反応してしまった詩があります。次の「生」というタイトルの詩です。

      

 

  ものをとりに部屋へ入って

  何をとりにきたか忘れて

  もどることがある

  もどる途中でハタと

  思い出すことがあるが

  そのときはすばらしい

 

  身体がさきにこの世へ出てきてしまったのである

  その用事は何であったか

  いつの日か思い当るときのある人は

  幸福である

 

  思い出せぬまゝ

  僕はすごすごあの世へもどる

 

 目前に70歳の迫った私の心境は、ほんとにこのようなものです。

 ここで書いておきたかったのは、私の何がしか関わってきた年少の人たちへの祈りの気持ちです。息子と娘、その配偶者たち、そして孫たちは当たり前のことなのでしょうが、それ以外にも、相手の気持ちは別にしても、自分が少し心を傾けた年少の人たちの「幸福」のようなもの(もとよりいっぱい苦しみも悲しみもあって)を願う気持ちがだんだんと強くなってきたように感じています。幸福であろうとすることが幸福であることを妨げるのだと言われれば、そのとおりかもしれぬと思いますが、それぞれの心が少しは充たされるような人生であってほしいと、自分にはどうすることもできないがそうであってほしいと、祈るような気持ちが確かにあります。

 臆面もないことですが、「花森書林」や「口笛文庫」、その店主たちも、そうした対象だということです。

 

 「トンカ書店」ありがとう、そして「花森書林」へようこそ。

 

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プロフィール
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70代前半。兵庫県在住。ニックネームは「パンテオンの穴」。
リタイア後の日々の中で思いを泳がせて、あるいは思いが泳いで 感じたこと、考えたことなどを、のんびりと綴っています。
                         
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