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2017.09.11 Monday

「僕の写真は自分が忘れたくないものを写したものだろう」ーRobert Frank:Books and Films,1947-2017 in Kobeー(1)

 先週(8日)、今月2日に開幕した「ロバート・フランク:ブックス アンド フィルムズ,1947-2017 神戸」[公式サイト]へ出かけてきました。

 こんなすばらしい展覧会ができるんだ、自分が関わったわけでもないのに、心の応援団としてはなんだかうれしくなりました。まだ足を運ばれていない方には(会期は9月22日まで、入場は無料、会場は神戸税関前のデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)です)、ぜひご覧いただけたらと思い、簡単に報告させていただくことにしました。

 今回は(1)として取り急ぎ展示を中心に外形的なことにとどめ、いわば展覧会場の案内的な内容を予定しています。ロバート・フランクの写真や映画そのもののことは、もう一度、展覧会にも出かけてみたうえで、何か言葉にできるのであれば、会期終了後ということになるでしょうが、(2)として書いてみることにします。

 

 この展覧会のことは当ブログ(「テオな人ー「生きている時代と向き合う」ということー」)の最後のところでもふれたりしましたが、最初から関わってきた島田誠さんは「待ちに待った」展覧会が開催したこと、その展示を「内覧会で初めて観て最初の想定に倍する充実ぶりに深い感慨を抱きました」と、その喜びを記しておられます[ギャラリー島田メールマガジン2017.9.3]。

 今年の初め頃だったでしょうか、島田さんからこの展覧会の神戸開催にトライしているとの話を伺い、「そんなことができればいいですね」と申し上げたときにはまだ半信半疑でした。それから8か月ぐらいの現在、このプロジェクトの仕掛人であるゲルハルト・シュタイデルから「今まで見た中で一番いい」(会場とか展示構成がということでしょうか)と言われたそうで、まことに驚天動地というほかありません。

 

 今回のプロジェクトの仕掛人と書いたゲルハルト・シュタイデル(1950-)は「世界一美しい本を作る男」として知られる出版人です(シュタイデル社という出版社はドイツのゲッティンゲンが本拠です)。そんなシュタイデルさんは、ストリート・フォトグラファーの創始者として現代写真に最も大きな影響を与えてきた写真家であるロバート・フランク(1924-)と、近年、共同作業によって彼の写真集(旧・新作)を次々と出版してきたようです。

 今回の展覧会は、そんな二人が、オリジナルプリントの美術市場における高騰によって写真展の開催が困難になっている現状を憂い、新聞用紙に写真作品を印刷して展示、終了後は完全に廃棄するスタイルで、世界50カ所で開催するというプロジェクトを企画したものです。日本では、昨年の東京藝術大学美術館に続く2回目の開催で、これで日本での開催分は終了ということです。

 展覧会のカタログに替わる新聞紙の「ロバート・フランク特別号」に寄せたシュタイデルの文章によると、世界中の若い観客に届けたいというのが「ロバート・フランクの明確な望み」であったそうです。この南ドイツ新聞で使われている新聞用紙の残りに写真を印刷して展示するアイディアをシュタイデルから聞いたロバート・フランクは「安くて早くて汚い。そうこなくっちゃ!」と言ったとあります。展覧会が終わって完全に廃棄する(1回ごとになのです)条件を知り、ようやく開催に同意したフランクは「腐った美術市場には何もくれてやらないぞ!」と<怒り声でうなった>と記されています。

 50ヵ所の開催地では、会場としては営利目的のギャラリーは除外され、それぞれの会場の主催者がふさわしいと思うような方法で、シュタイデル社のインクジェットプリンターで新聞用紙に印刷された写真が展示されるというわけです(ということは、世界50ヵ所を巡回する展覧会というより、同じコンセプトで1回限りの展示を世界50カ所で開催するというのが正確なのでしょう)。

 この高額取引されるプリント作品のアンチテーゼともいえる展覧会の企画は、写真集を作るという二人の共同作業(包括的な「編集作業」ともいえます)の積み重ねがあって初めて実現できたプロジェクトであることに注意しておきたいと思います。

 

 さて、やっと旧生糸検査所であるKIITOの会場に入りました。

 私の印象は、最初から最後まで「シンプル」とよい意味での「カジュアル」に貫かれた展示だなあということです。長さ3m以上ある細長い白い新聞紙(私たちの思い浮かべる新聞紙ではなく、南ドイツ新聞でも日曜版などの特別な記事用に使われる少し厚めの白い新聞紙です)の下の方に複数の写真を印刷された垂れ幕が天井から吊り下げられてずらりと並んでいます。

 1階の大空間は中央の天窓を挟んで北側と南側に細長い長方形が二列できます。北側のより長い空間には、ロバート・フランクが1947年にスイスからアメリカへ渡る前から50年代に至る頃の写真から構成されており、写真集ごとにおおよそ撮影年次の順に連続して展示されています。写真集のキャプション入りの垂れ幕は写真の印刷されたと同じ長さでカーキ色の紙に印刷されて、写真集ごとの区切りとなっています。

 北側に比べると少しだけ短い南側の長方形空間には、北側と同じように、高齢になったロバート・フランクの近作というべき写真集にかかる写真の展示と、ロバート・フランクが写真から映画へと制作の軸を移行させて撮影した短編作品を連続して放映するビデオコーナー、そしてその奥には長編作品を放映する仕切られた空間(座ることができます)があります。

 北側と南側に挟まれた中央空間には、今回展示されている写真集がワイヤーに吊るされており、観客は自由に写真集を手にとってみることができます。

 昨年の東京藝術大学美術館では、会場の関係もあって、床から立てたメタル・フレームに写真の印刷された新聞用紙をカットして貼り付けた展示もあったとネットで見ました。ここ神戸では、体育館のようなKIITOという会場の広さもあったのでしょうか、元々の発想であったと思われる天井から吊るすという方法で、整然と垂れ幕を並べる展示となっています。

 いろんな工夫も楽しいのでしょうが、これがシュタイデルさんが意図したシンプルな展示であろうと感じました。だから「今まで見た中で一番いい」というシュタイデルさんの評価につながっているのでしょう。

 説明が上手く書けないです。とにかく、これは百聞は一見に如かずです。

  会場の入り口にあたるところです 

  入場料が無料なので受付といっても簡単なものです(ここで荷物を預ってくれます)

  北側の展示空間を西から東へ撮影しました 

  大きな体育館のような天井から紙製の垂れ幕が吊り下げられ並んでいます(カーキ色は写真集の説明)

  北側の展示空間から中央と南側の展示空間を撮影しました

  北側の展示空間を南西の角から撮影しました

  中央部の写真集がワイヤーで吊るされた空間と南側の展示空間の一部を撮影しました

  奥には南側の展示空間の短編ビデオコーナーと長編放映スペースが見えます

  中央部の写真集の吊るされたところを撮影しました

 

 展示の方法についてももう少し書いてみます。

 北側の展示の最初と最後のところにシュタイデルさんが同じ新聞用紙に書いたと思われる手書きのロバート・フランクの言葉とその日本語訳(これもシュタイデルさんでしょうか)が掲げられています。オフ・ビート感覚とでもいうのでしょうか、ちょっとラフで緩い感じがこの展覧会にふさわしいのだと思います。本稿の長たらしい表題「僕の写真は自分が忘れたくないものを写したものだろう」はこの手書きのロバート・フランクの言葉の一節をそのまま拝借しています。

 順番に見ていく場合は、まず写真集ごとに説明文が英語と日本語で印刷されたカーキ色の垂れ幕があります。その次にその写真集の写真(もちろん一部です)が新たに構成され新聞用紙に印刷された垂れ幕4本によって表示し、それらが終わると、次の写真集になるという並べ方、展示となっています。動線は左から右へ、右から左へと連続して見れるように何列も続いています。写真集ごとにどの写真をチョイスするのか、それらをどう並べるのか、最も難しいところかもしれませんが、二人で写真集を作ってきた蓄積があってのことなのでしょう。

 1本の垂れ幕に印刷された一枚一枚の写真は大きなものではありませんが、私の目からするとそれなりに質の高い印刷であり、新聞の写真というよりは、写真集の写真の方に近い印象です。一枚の垂れ幕に複数の写真が印刷されると、新たな言葉が生まれる感じがしてくるから不思議です。

 

 やっと展覧会の名称が「Books and Films」となっている理由がわかった気持ちになりました。つまりBooksとは写真集のことですし、Filmsとは長編と短編の映画のことです。今回、私はBooksの方はなんとか見た気になりましたが、Filmsの方はノータッチに近い状態のままになりました。

 展覧会場を回っていて、私はシュタイデルがロバート・フランクと関わって作ってきた写真集や映画作品(これもシュタイデル社からDVD化されたものがテキストと合わせて出版されているようです)のエッセンスを、多くの方に見てもらおうと企画されたものではないかと思い始めました。出版人であるゲルハルト・シュタイデルにとっては、このような展覧会を出版しているような感じ、それぞれの会場のごとに毎回一冊の本を出版しているように思っているのかもしれないと考えたのです。

 

 これはこれでいいのかなと思ったりもしますが、観客数のことです。

 平日の昼間だからということでしょうか、「若い人にもっと見てほしい」というのがロバート・フランクの望みだそうですが、やはり私のような中高年者が目立っていますし、会場が広いこともあって観客の数が多いようには見えません。関西圏域でのPRなど、いろいろと努力されているのでしょうが、そのあたりがもっと必要だと思ったりもしました。

  北側の展示空間の冒頭脇におかれたロバート・フランクの言葉です

  左側に写真集の説明、その右側に新聞用紙に印刷された当該写真集の写真が印刷されています

  上記はロバート・フランクが1948年に訪れたペルーを撮影した『ペルー』(2008年)です

  写真の垂れ幕1枚を正面から撮影しました(『黒、白ともの』(1952年)より)

  これは少女?の視線が印象的な『バレンシア』という写真集の一枚です

  北側の展示空間の最後におかれた手書きされたロバート・フランクの言葉です

 

 もし足を運んでいただけた場合、もう一つ楽しんでいただきたいのは、旧生糸検査所の歴史的建築物としての迫力と立派さのことです。

 という私もこれまで何度か寄せてもらっているのですが、室内の展示やイベントに注目しているだけであまり外部を見ていなかったのです。今回、当ブログでちょうどバルセロナのモデルニスモ建築(「バルセロナで美の喜びと出会うーモンタネールのモデルニスモ建築ー」)とプラハのキュビズム建築(「ここにしか存在しないとはープラハのキュビズム建築ー」)のことを続けて書いたせいなのか、建物の外部にも目がいきました。旧生糸検査所は、旧神戸市立生糸検査所(1927(S2)年竣工)と、増築部分の旧国立神戸生糸検査所(1932(S7)年竣工)からなりますが、広い街路に面しているのは旧神戸市立の方です。

 ゴシック調と書かれていますが、中央玄関の両端で4層を貫いてさらに上方に伸びる八角形断面の柱が特徴的なフォサードであり、神戸税関の対面に立つその姿は一見に値します。ともかくも、クリエイティブ・デザインセンター神戸として活用されていることを喜びたいと思っています。

  旧神戸市立生糸検査所のファサード前景です 中央の八角形の柱が目立ちます

  正面玄関の部分です なかなかの迫力です

 

 以上が今回の展覧会についての外形的な紹介ということになります。

 小中学生のコンクールでたくさんの作品を展示する場合、上下に作品をつないで縦に並べる方法がありますが、そんな手作り感、カジュアル感もある展覧会でした。いずれにしても、取扱いの厄介な写真という展示方法の高い壁に大きな風穴をあけることのできる展覧会であったことはまちがいありません。

 

 今回の展示で各写真集の説明文などを読んだり、特別号のシュタイデルの文章を読んでいると、次のことに気づきました。ロバート・フランクは「いかなるコメントも説明文も不要」というスタンスのようですが、だからこそというべきか、写真集の編集作業において、無数の写真の中から写真をチョイスしてどう構成して並べるか、これを大切にしているとのことです。最も有名な写真集『アメリカンズ』について、シュタイデルは「フランクは何度も何度も、何か月もかけて自分の写真群を構成し直し、まとめて整理した」、だから叙事詩になったのだと書いています。私はロバート・フランクが写真家であるということは優れた編集者でもあると申し上げたいのです。

 その意味では、ロバート・フランクとゲルハルト・シュタイデルという二人の傑出した編集者の魂がスパークして成立したのが今回の展覧会なのだということもできると、私は確信しています。

2018.01.19 Friday

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60代後半。兵庫県在住。ニックネームは「パンテオンの穴」。
リタイア後の日々の中で思いを泳がせて、あるいは思いが泳いで 感じたこと、考えたことなどを、のんびりと綴っています。
                         
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